残しておきたい雑談がある

リニューアルしたなぽりんブログ。(日常報告よりちょっとまとまったネタ)

同人著作物についての判決がでた

そもそも、二次的著作物、というよりいわゆるコミケ文化の二次創作の創作性についての判断が高裁判決の形で世に出たのは始めてであろう。
 
BL同人作品には著作権があるし、原作の権利も侵害していない?栗原潔さんによる知財高裁で出た判決の解説がわかりやすい - Togetter
 
第一報を聞いたとき、漫画出版社などの「公式」が同人制作者などを訴えて裁判所が判断したのかとおもった。だがそれは完全にはずれた予想だった。
この場合第一審原告は同人製作者であり、第一審被告はBL同人誌無断アップロードサイトだった。この無断アップロードサイトが複製権侵害した上で損害賠償訴訟で訴えられたときに盗人猛々しい抗弁をくりひろげた。やむを得ず裁判所は「二次創作である原告の同人誌にも著作権は存在している」と判示することになった。和解の誘惑にも逃げず被告が言いたい放題いいつくしてくれたクソみたいな言い訳のおかげで、むしろ怪我の功名的に発生した「二次創作同人誌にも著作権(複製権)あるんだ」という裁判所認定。奇貨ともいうべきかもしれない。
 
事件の流れをかいつまんでいうと次のとおり。 
イデアや概念(=脳内にあるもの)は著作権では保護されない。これはどこの国の著作権法でも大前提。これをいままで出版社が著作権(版権というわかりにくい言い方)で保護しようとしていた(無理筋)。それをずるがしこい無断アップロードサイトが悪用して「こんな二次エロ作品、どうなったって文句いえねえだろ」と開き直ってみせた。使用料も支払わない無断アップロードがバレてますし、本来の製作者側でもアップロード以降売上もオチてるデータを出している。つまり損害賠償しろと民事で訴えられたときの苦し紛れです。
それを知財高裁が「キャラというアイデアが他にあっても原作にないストーリーを原作にない絵で書いてるんだから著作権発生してるよね。きみは著作権侵害したんだし損害もあたえてるよ。損害賠償を同人作者に支払いなさい」ってさとした。
トゥギャッターコメントのいくつかは悪質アップロードサイトの言い分をそのまま真に受けてしまっているので注意。判決には裁判に負けた側の言い分もきっちりかかれてる。どこからどこまでが誰の発言かを区別しないとクソ言い訳の謎理論を真に受けることになっちゃう。
 
さてこれで、二次創作も通常の出版社などを介した創作物と同様、パッケージまるごと公衆送信してしまうことは違法であるという基本方針が確立された。
また、内容がエロ同人誌であってもエロ部分にむしろオリジナリティがあり著作権は発生しているとの判示もされた(というか「エロ同人誌はわいせつ物だから使用料払わなくていいんだ」っていう被告の主張、「おれをわいせつ図書頒布罪で刑法で逮捕してくれ」という自爆主張になってるという指摘コメントをみて笑った)
 
さらにみていくとトゥギャッターコメント欄では古くはときめもコナミ勝手にAV化事件で同一性保持権侵害の判決がでたのだがだいぶ違うねというのが例示されている。
 
ここから先は私の持論だが、それはその時代でこそなりたったのではないか。不正競争防止法が平成に入って毎年のように拡充されたり、創作パッケージまるごとを公衆送信可能化することが厳罰化する前だった。社会状況は刻々と変わっており、平成から令和にかけてはスマホ対応でまったく様相を変えている。
今、著作権法は販売パッケージまるごとデジタルコピーするような権利侵害に対しては親告罪どころか非親告罪化までして厳しくあたるようになっている。漫画ダウンロードだって(違法サイトからダウンロードしてる自認があるやつは)厳罰化された。
つまり、まるごとコピーだけでも日々侵害が発生しており、それを十分おさえこむ必要性があるから警察が動くような話になってきたのだ。
一方で、スマホでシェアできる程度の部分的な著作物の利用(たとえば引用、背景映り込み)については32条など権利制限規定も同時に著作権法内に拡充されてきており、ときメモコナミの時点とは相当法解釈(というか法域の棲み分け)が異なってきていると思われる。
ときめもAVの判決は(コメント欄を信用するなら)同一性保持権違反だったらしい。同一性保持権というのは著作人格権の一つだ。著作人格権は著者が死ぬまでしか効かないし、複製権や公衆送信権(死後70年続き、多くは遺族や出版社が預かる)とは本来かかわりがない。公表権(最初の公表日を決める権利)、氏名表示権(自分の公表時の名前をペンネームにするか本名にするか好きに決められ、他人の作品として表示されることはない権利)、同一性保持権(編集者に校了原稿を換骨奪胎されたりしない権利)である。
ときメモAVが同一性保持権違反で判決だなんて、ときめも作者が事故で死んでいたらそういう判決は一切出せないのである。昔ならそういう法律の使い方もあったかもしれない。だが今は原告の主張としてもあまり通用しにくい、つかわれないものではないかというふうに感じられる。 
もし今やるのなら不正競争防止法「周知パッケージパクリ禁止罪」か商標法あたりか。でもAVはAVダウンロードサイトにしか置かれないようになったし、まちがえずにたどりつける分別ある成人しか金も払わないわけだ。あからさまにパロディとわかるように売られており本体に損害も与えていないのなら放置かもしれない。
ここから先はさらに個人的意見にすぎないので眉唾しながらきいてほしいのだが、
もし、「ファンダムであってもいい加減な二次創作にキャラをいいようにつかわれたくない」と原著作者が嫌悪感を感じたときに利用できる権利があるとしたら、「そんなことするなら続編一切かかないぞ脅迫」をするか(やった作家さんいらっしゃいますぞ)、「商品化権(商慣習的なもの)=パブリシティ権=物(キャラ)の肖像権」あたりを新たに「法制化」するしかないのだとおもう。うちの藤さきなんとか織という女子キャラは、男と寝たり絶対しませんよ!っていうのを高校生漫研の回覧絵日記ノートレベルのファンダムまで自発的に一切合切二次創作停止!とさせるのって具体的手段では洗脳しかないですからね。「原作神に続編かかれないのは絶対に困る洗脳」はだいぶ有効ですけど、法律がどこまで他人の脳内に踏み込めるかには限界がある。
というのも、モラルの高いファンが「積極的に原作者に金をおとしたいのだがなんで大人好みの周辺商品がでないのか」、と悶えるような世の中で、一たん世に出し独り立ちしたキャラクターの「愛され」を止める方法は著作権というパッケージ商品保護法律だけではまったく追いつかなくなっている。
「このキャラはすばらしいんだ」というアイデアを表現に変えて発信したいのも著者やファンの本能であるから、なかなかとどまるものではないだろう。
えっ「版権」ですって? その法律は江戸から明治時代だけでおわりましたよね。